こんにちは。ISO 14001講師の吉田宣幸です。
今回は、技術や製品のSDGsへの貢献をどのように評価して示すのか、ファインバブル技術を例として解説していきたいと思います。
(国連SDGsには17の目標があり、人権関係だけでなく、環境関連の目標も多数含まれています。)
さて、ISO 14001審査で、審査員から「御社の製品で、環境性能に優れた製品の販売促進を環境目標に掲げて推進されていますが、本当に環境性能に優れているという根拠は何ですか?」という趣旨の質問を受けたことがあるのではないでしょうか。審査員にしてみれば、「良い活動ですね」と称賛したことが、後から「悪い活動をなぜ良い活動と称賛したのか」と責められる事態は避けたいので、当然の質問と言えます。
例えば、
受審側「我々が販売しているこの商品を使用することで、水の使用量が減るので、環境性能が高いと考えています」
審査員「圧力を高めるためにエネルギーを多く使用するようですが、水とエネルギーはどのように評価していますか。廃水の水質も変わるのではないですか」
受審側「それは測定していません。我々は販売会社なので、メーカーのカタログに書いて無いことは知りません」
審査員「測定も評価もしていないのに、環境性能が高いと言い切れるのですか。」
受審側「……(何を事前に把握しておけばよかったのだろう。。。)」
環境性能だけでなく、労働安全衛生など人権の観点など視野を広げると、その商品の使用場所の近隣住民や、商品の製造段階での影響や、廃棄段階での影響など、倫理的に考えると非常に多くのことが気になってきます。
全てを網羅して評価するのは大変ですが、一つの割り切った考え方として、国連SDGsの17の目標はかなり多くのことを含んでいるので、国連SDGsへの貢献を評価することで、大半のことを考慮したことにしよう、という発想も有り得ると思います。
その前提に立ち、製品や技術を客観的に評価する方法が公的に示されており、それに基づいて評価をすれば、審査員だけでなく顧客や世間一般に対して、堂々と宣言できます。良いことなのだ!!と。
このように都合の良いものの一つが、「ISO/TR 24217-2:2021」です。
ISOのテクニカル・レポート(標準報告書)の一つです。
タイトルは、
『Fine bubble technology — Guideline for indicating benefits — Part 2: Assignment of Sustainable Development Goals (SDGs) to applications of fine bubble technologies
(ファインバブル技術-メリットを示すためのガイドライン-第2部:ファインバブル技術の応用への持続可能な開発目標(SDGs)の貢献評価)』です。
ちなみに、ファインバブル技術とは、非常に簡単に言えば、水中の小さな泡についての技術です。
例えば、船のスクリューを速く回すと、小さな泡が発生します(泡の大きさによっては光を乱反射するので白色に見えます)。この泡が消える際、つまり小さな泡が破裂する際に微細な衝撃波が発生します。船を長年航行していると、その小さな衝撃波の積み重ねでスクリューが少しずつ削られて痛むため、スクリューを設計する際は、いかに泡が発生しないようにするかがポイントでした。しかし、この衝撃波は、表面に付着した汚れをはぎ落とす働きもあり、うまく応用すれば、洗剤(界面活性剤)を使用せずに食器などが洗えることになります。
泡の大きさや密度などを変えることで、水耕栽培レタスの収穫量増大や、大麦種子の発芽促進をもたらすこともできます(試験方法がそれぞれ、ISO/TS 23016-1、ISO 23016-3に定められています)。
ちなみに、カーボンニュートラルでも注目されており、CO2(二酸化炭素)の吸収固定化技術の中で、カルシウムとの反応にファインバブルを利用することで、効率的に炭酸カルシウムを生成するのではないかと、研究が進められています。
このように、さまざまな効用があることに加えて、水と空気(water and air)というシンプルな構成要素なのは、大きな特徴です。
さて、話を「ISO/TR 24217-2:2021」に戻しますと、このテクニカル・レポート(標準報告書)の構成は、まえがき(Foreword)、序文(Introduction)の後に本文が箇条7(第7章)まであり、附属書(Annex)がA~Cの3つあります。
序文(Introduction)にはSDGsの観点で2つの特徴が書かれており、上記の通り、水と空気(water and air)というシンプルな構成要素なのでデメリットが無い又は少ない点、もう一つは先進国だけでなく発展途上国でも非常に役に立つというメリットが大きい点です。
ファインバブル発生装置は一般に小型で移動可能ですし、水が手に入れば比較的容易にファインバブルを供給できます。
また、用途としては、浄水、洗浄、農業用途、漁業用途、食品製造、環境回復(environmental recovery)など、多岐にわたります。
このように、SDGsとファインバブル技術を結び付けるガイドライン(つまりISO/TR 24217-2:2021)の必要性が書かれています。
箇条1適用範囲(Scope)には(他の規格と同様に)、このテクニカル・レポート(標準報告書)の目的が書かれています。
・SDGsのどの部分においてファインバブル技術がユーザーに貢献できるかを、サプライヤーが示すため
・ファインバブル技術に関連する文書のSDGsへの貢献を評価するため
・ユーザーがファインバブル技術を使用するメリットを理解するため
上記2番目に登場する『ファインバブル技術に関連する文書』とは、ファインバブル技術に関連するISO文書が、すでに30以上存在しているため、そのことを踏まえての記述です。実はファインバブル技術の規格化は日本が主導で進めたという歴史があり、効果の無い偽物技術との差別化を図っています。一般社団法人ファインバブル産業会殿のホームページ(https://fbia.or.jp/)をご覧いただくと、詳細が載っています。
説明の順番がテクニカル・レポート(標準報告書)の章立てと前後しますが、先に附属書Cの説明をします。
附属書Cには、ファインバブル技術を使用した場合とそうでない場合の比較データが載っています。
農業分野では、レタスの収穫量増大のデータ(グラフ)が載っており、SDGs 2(飢餓ゼロ)以外にも、SDGs 9、14、15にも貢献していることが示されています。詳細はISO/TS 23016-1ご参照。
清掃分野では、トイレの床掃除で洗剤消費量が大幅に減ったデータ、水の消費量が大幅に減ったデータ、清掃時間が大幅に減ったデータが載っており、それぞれSDGs 3、12、14、SDGs 6、12、SDGs 8 に貢献していることが示されています。洗浄効果が高まることで、このような3つの改善があり、そのそれぞれがSDGsに貢献することで、合算すると5つものSGDs(3、6、8、12、14)貢献となることが示されています。
正規品の使用者やサプライヤーは、データ収集の苦労無く、SGDs貢献を宣言できるため、テクニカル・レポートのありがたみを感じます。
附属書Bには、SDGsへの貢献を示すために、どのような客観的証拠を得るべきか、項目の例が示されています。
運転中に発生・排出する環境有害物質、二酸化炭素。電力消費量。製品やサービスの有害性。上記の附属書Cの「トイレの床掃除」にあるように、発生する廃水の水質(洗剤含有量=洗剤消費量)や水量などが挙げられています。
附属書Aには、ファインバブル技術の用途(洗浄用途、水処理、農業用途)が、それぞれどのSDGsに貢献するのか、例が示されています。
(上記の附属書Cの「トイレの床掃除」のように)、5つのSGDsに貢献することもあります。
この附属書Aに示されたものは、SGDsに貢献する証拠が有るもののため、正規品の使用者やサプライヤーは、データ収集の苦労無く、SGDs貢献を宣言できるため、テクニカル・レポートのありがたみを感じます。
さて、ここからは、附属書Aなどの結論に至る”思考”を見ていきましょう。
上記の附属書Aでは、SGDsに貢献する証拠がすでにそろっているものだけが載っていましたが、示すSDGs項目を拡大する場合に役立ちます。
規格の順番、つまり用語、関係者、関係する重要と思われるSGDsの主要要素の特定、SGDsの割り当て、文書の検討と改訂、の順番で話を進めます。
箇条2引用規格(Normative references)では、ISO 20480-1とISO 20480-2が示されています。
それぞれ、ファインバブル技術の用語の規格と、ファインバブルの属性の分類の規格です。
箇条3用語及び定義(Terms and definitions)では、箇条2に登場した2規格での用語以外に、3つの用語が定義されています。
sustainability、sustainable development、stakeholder。
箇条4では、ファインバブル技術でSDGsに貢献する「関係者」として、「パートナー(Partners)」と「利害関係者(Stakeholders)」を挙げています。
利害関係者の中には、消費者、顧客、労働者、サプライチェーン内の組織やコミュニティ、将来世代や一般大衆も含まれます。
子供や特別な事情のある「潜在的に脆弱な利害関係者」は、他の利害関係者よりも影響を大きく受けるため、また特定することが難しいため、特別な注意を払う必要があります。
この箇条4での「関係者」の洗い出しと、次の箇条5での「関係する重要と思われるSDGsの主要要素」の間は、何度か行き来しながら決めることになると思います。
箇条5には、17のSGDsそれぞれについて、関係する重要と思われる主要要素の例が載っています。この主要要素の例と様々な情報源を基に、当てはまるSDGsの主要要素を特定します。
この情報源には、材料データシート、リスクまたは傾向に関する研究、法的要件、製品宣言、サステナビリティレポート(持続可能性報告書)、影響評価レポート、公開された査読済み科学研究論文や、利害関係者との協議の結果などが該当します。
情報源は、なるべく多く確認するようにしましょう。マイナスの評価を握りつぶすと、後で非難されることになります。偽装「SDGsウオッシュ」「ブルーウオッシュ」などと言われないように。
この箇条5で特定した「関係する重要と思われるSDGsの主要要素」を踏まえて、SDGsへの貢献を具体的に記載するのですが(以下、仮称SDGs宣言書)、細分箇条6.2と6.3に注意しながら作成する必要があります。
ちなみに、「仮称SDGs宣言書」は、今、説明のために私が勝手に決めた造語です。
細分箇条6.1では、上記の附属書Aと附属書Cを参照した上で、「仮称SDGs宣言書」に記載する具体的な取り組みを執筆することを勧めています。
細分箇条6.2では主に使用場面を想定して、持続可能性に関する問題点として、例えば次のようなことについて、どのような影響を与えるのか検討することを勧めています。
・この技術を使用することで生じる健康と安全への影響
・提供する側の労働条件
・環境、社会、経済にもたらすメリットの性質、利益の分配
・経済発展や、イノベーション(技術の革新、利用の革新)への影響
細分箇条6.3では、細分箇条6.2で想定した場面よりも視野を広げて検討することを勧めています。例えば次のようなことを測定しましょう。
・材料の生産による環境への影響(例えば、エネルギー生産や消費等も)
・材料の生産に当たる労働者の労働条件、健康状態などの安全性
・使用段階における環境、健康、安全への影響
・手順や測定など改善による、コスト削減
・新たな産業や雇用を促進する可能性(環境、社会、経済に利益をもたらす技術開発)
箇条7では、SDGsとの関係を定期的に議論し、文書の検討と改訂を勧めています。
マネジメントシステムに馴染みのある方は、きっとここにはISO 14001やISO 9001の細分箇条7.5の文書管理などの難しいことが書いてあると思いがちですが、少し毛色が異なります。
ファインバブル技術は、世界の課題解決に貢献する素晴らしい技術のため、必ず何らかのSDGs項目に該当するはず。したがって、過去に発行した製品カタログやサービスカタログなどを定期的に見直して、SDGsとのつながりを追記しましょう。SDGsとの関係を定期的に議論することで、きっと新たなSDGsとのつながりが見えてくるはず?!という力強いメッセージを感じます(ここまで露骨には書かれていませんが、、、)。
SDGsとの関係を定期的に議論することで、場合によってはマイナス面も判明するかもしれませんが、判明すれば手を打つことができます。プラス面の発見であっても、マイナス面の発見であっても、いずれであっても改善につながります。
さて、ここまで私のかなり偏った解釈で読み解いてきましたので、正確には「ISO/TR 24217-2:2021」の原文をご覧になることをお勧めします。ISOのテクニカル・レポート(標準報告書)は、一般に5年間で無くなりますので、無くなる前に購入なさることをお勧めします。