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キャリアコンサルタント寄稿・コラム

社会を蝕むシャーデンフロイデ(キャリア・カウンセラー便り・2023年11月号)

キャリアコンサルタント
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このコラムは、実力あるキャリアコンサルタントの養成を使命としている(株)テクノファが毎月配信している「キャリア開発支援のためのメールマガジン」に掲載している、活躍しているキャリア・カウンセラーからの近況や情報などを発信している「コラム」を掲載しています。

 

シャーデンフロイデとは?

シャーデンフロイデ(独: Schadenfreude)とは、他者が何らかの不幸や悲しみ、または苦しみや失敗などに見舞われた際に生じる、喜び、嬉しさといった「快の感情」である。

該当する日本語はないが、しいて言えば「他人の不幸は蜜の味」とか「ざまあみろ」、「いい気味だ」といった表現が近いと思われる。

ちなみにドイツでは「野卑な笑い」または「幼稚な感覚」的なニュアンスを持つ言葉として解釈されているという。

こういった情動の背景には、以前から隠し持っていたであろう恨み、妬み、嫉み、憎しみなどのマイナス的な感情が無自覚ながら蠢いていることが多いようだが、身近な存在だけに向けられると思いきや、どこの誰か知らない相手に対しても同様に生じるものらしい。

というのは、他者が困ったり戸惑ったりするよう目論んで意図的に細工し、誰かが罠に嵌って困惑する様子を隠し撮りするという所謂「ドッキリ動画」を観ている視聴者らの心にもシャーデンフロイデが起こっていると思われるからである。

ドッキリ映像は、もともと『元祖どっきりカメラ』という番組名で1970年代から1990年代まで日本テレビ系列で放送されたバラエティ番組シリーズであり、残念ながら視聴率も高かった。

人気番組であったがゆえに終了した後でも各局テレビの特集番組やYouTubeなどでも頻繁に見かけることから、一般的には既に娯楽として定着しているとみていいだろう。

だが、笑って済むような軽い内容であれば相手も怒るまでには至らないだろうが、中には目を覆いたくなるような酷い仕打ちもあれば、過って怪我をさせてしまったり、死に至らしめてしまうケースもある。

それこそ冗談のつもりが、結果的に一生後悔する悲劇となってしまうことさえある。

 

なぜ人は「他者の災難」を愉快に感じてしまうのか?

なぜ人は「他者の災難」を愉快に感じてしまうのだろう・・

シャーデンフロイデは、上に挙げた例以外にも様々な場面で起こっていると思われる。

たとえば、スポーツの場においては敵チームの失点、競争相手の怪我、優等生やエリート社員のミス、偉ぶっている上司が恥をかく・・など。幾つもの場面を想定することができよう。

小学校時代を振り返れば、運動会などで行なわれるリレーにおいて、先行する敵チームがバトンを落とした時に「やった!」などと声を上げて喜んだ経験があるだろう。

味方チームを応援することと、敵チームのミスやエラーを喜ぶことは、自分たちにとって有利な展開になることに違いはなくとも、けっして同じではなく内的な意味は大きく異なるのではないだろうか・・

似た意味で、ライバル会社に勝つための努力が報われ、結果的に契約が取ることができたとすれば嬉しかろう。しかし、競争相手が失速するのを観て愉快に感じる感覚とイコールであることに違和感はないだろうか。

シャーデンフロイデは、集団内においてはチームビルディングの障害となる危険性を孕んでいるし、他の集団との間においては対立を生み出す元凶と捉えることもできる。

それこそ派閥の存在など以ての外である。

多かれ少なかれ、人は誰でも苦手な相手はいるものだし、様々な人間関係を通して不愉快な思いをしたことがあるだろう。だからといって、その者の不幸を願い、転落する様を見て嬉しく感じたとして、いったい何を得ることだろう、何が残るというのだろうか・・

 

自己と他者の垣根を取っ払う

ところで、だいぶ昔の話だが、当時小学6年生だった私の息子がNHK制作の「プロジェクトX」という番組を観ながら肩を震わせて泣いていたことがあった。

内容は、日本では後発の自動車メーカーである「ホンダ技研」がCVCCエンジンを開発するまでの物語だった。

車の排気ガスに含まれる窒素酸化物が太陽の紫外線によって有害なものに変化し、それを吸った多くの人々が倒れ病院に搬送されるという出来事が世界中で相次いだ。クルマ社会の先を行っていたアメリカの議会は、この問題を重く捉え、「マスキー法」なる法を以って製造責任を自動車メーカーに課すこととなる。

『ガソリン乗用車から排出される窒素酸化物の排出量を現状から90%以上削減するという規制(いわゆる日本版マスキー法)は当初、1976年度から実施することとされていたが、技術的困難、達成した場合における性能低下や輸出競争力低下等を論拠とする産業界からの強い反対があったことで、その実施については紛糾を重ねた。
しかし、自動車排出ガス規制を求める世論の高まりの中で、至難といわれた自動車排出ガス低減技術の開発が急速に進められ、結果的には1978年に2年遅れであったものの、当初目標通りの規制が実施された。』

(出典)独立行政法人環境再生保全機構HP「日本版スキマ―法の実現(1978年)」より抜粋

 

番組は、この難問に対して寝食を忘れて果敢に挑み続けたホンダ技研の技術者たちを追ったもので、体育の授業中にグランドで倒れる子どもたちを救うために・・と必死になって低公害エンジンの開発に努める彼らの横顔が映し出されていた。

彼らの真剣な眼差しに心を打たれた息子は、一企業として他社に先駆けて優れた製品を生み出す・・ということ以前に「自分たちが社会(世界)のために何を為すべきか。どのような貢献ができ得るか。」について純粋に取り組んでいる彼らの姿に深い感銘を受けたようだった。

しかもホンダは発明した技術を独占することなく、その年の内に世界中の自動車メーカーに対して特許を公開している。

他社との開発競争に勝つためではなく、人々の健康を守るため、そして子どもたちに安全な環境を提供するためにと懸命に取り組んでいる様子には、息子だけでなく一緒に観ていた私にも熱く込み上げてくるものがあった。

さて、以前のメルマガで、心理学者アドラーが言うところの「共同体感覚」について書かせて頂いたことがあったが、ここで云う「共同体」とは、狭義では一つの団体として「一企業」ということになるのだろうが、広義においては「国家」、さらに広い視点を持つことが可能であれば「世界」をも含めた「人類共同体感覚」と捉えることができるのかもしれない。

このことは決して夢物語などではなく、新型コロナによるパンデミックや、温暖化などに代表される地球環境問題など、今や人類は一企業や国家レベルでは解消しきれない大きな問題に対して、ミクロとマクロを等価値に捉えることができるか否かが問われていると言える。

これは国家同士の対立やイデオロギー論争、宗教、文化、教育など、あらゆる分野において起こりがちな軋轢においても共通することである。

話を戻せば、シャーデンフロイデとは「自己と他者」そして「自分たちと奴ら」という対立的構図の中に在って、自らの位置すら俯瞰できない視野狭窄的な心に巣食う「盲目的世界観」から生み出されるエゴに起因しているのではないかと思われる。

たとえば、地球の反対側でジェット旅客機が墜落し、乗っていた500人が亡くなったとする。それを知らせる国内メディアの最初の台詞が「日本人乗客は含まれておりません」では悲しいではないか。

もしこれが国内で起こった事故であれば昼夜を問わず現場からの実況中継を続けるだろうに、あまりに素っ気ない。まるで、知らない者のことなどかまっていられない。無関心なのも当然といった具合である。

オリンピックやワールドカップに沸くのもけっこうだが、同族意識的に自分の国を応援するだけでなく、海外からやってきた選手ひとり1人のプロフィールにも目を向けてほしいものだし、贔屓するチームが残念ながら敗退したとしても、真にその競技を愛するというのであれば、観続けるはずなのだが・・あなたはどうだろうか?

船井総研の総帥であった故・船井幸雄氏は「包み込みの発想」という言葉を残している。これからの企業は、損か得かではなく、敵か味方かではなく、好きか嫌いかでもなく、自分の尺度で相手を測るのではなく、とにかく何でもかんでも包み込んでしまえ!というのである。

目先の利益に囚われず、広い観点から様々な角度で捉え、自己と他者(自分たちと奴ら)の垣根をできるだけ取っ払う。

うちの社員だからと囲ってしまわず自由に学ばせ、異業種とも積極的に交流し、無関係と思える業種にも敢えて手を触れ、一歩踏み込んでみる。

こういった姿勢を持つことで視野が広がり、シャーデンフロイデが如何に野卑で幼き感情なのかを理解できれば、それこそ「真の大人の関係」を築けるのではないだろうか。

おわり

この記事の執筆者
鈴木 秀一(すずき しゅういち)
・文部科学省:国の補助事業「スクール・ソーシャルワーク活用事業」スーパーバイザー
・滋賀県スクール・ソーシャルワーカー
・企業研修講師スクール
・ソーシャルワーク活用事業
・スーパーバイザーとして活躍中。また、企業におけるメンタルヘルスに関する予防的対応としてのリスナー研修や、企業内コミュニケーションの円滑化を図ることによるチームビルディングなども請け負っている。
・ブログ「
しゅうべいのちょっと哲学」はこちら→http://blog.livedoor.jp/torapa1701/

 

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