このコラムでは、品質部門が、“成果に結びつく本質的な役割を果たす” ために、部門や個人がどう使命・役割を果たしていかなければいけないかをシリーズでお届けしていきます。(14回シリーズ)
はじめに
このところ、毎年のように世間を騒がす「品質不正」が続き、減るどころか増える気配さえ感じられる。
このような状況に対して、国内のみならずに海外の主要メディアまでが “長い間世界中で手本となってきたJapan Qualityにいったい何が起こっているのか” という特集を組む等して「made in Japan」ブランドに対して不信感をあらわにしている。
このような状況に、日本品質管理学会(The Japanese Society for Quality Control:以下JSQCと略す)[1]は、品質不正の未然防止に関する10編の論文を、JSQC学会誌「品質」に掲載した。
また、JSQC内に「品質不正防止」のテクニカルレポート[2]発行活動が始まり、筆者は双方の活動に絡んだことによって各企業が弁護士等に依頼した「第三者委員会報告書」等の多くの関係書類を確認する中で、日本を代表するような企業で起きている実態と品質部門の抱える多くの問題点を認識するに至った。
品質不正が発生する「要因」は?
これらの記述から、品質部門の主要業務の共通点は、
- 「検査」
- 「クレーム処理」
- 「ISO事務局業務」
- 「内部監査」
であることが想定された。
これらの業務を行う中で、付加価値を生まない組織との認識が広がりを見せ、長年設備投資されない旧態依然の設備や、慢性的な人員不足などの経営資源配分が不十分の上に、ステータスが一段下に見られているなどの記述までがみられる点でも共通していることが推察された。
ただし、これらの品質不正を起こしている企業のほとんどが、ISO 9001のQMS認証(以下QMS認証と略す)企業でもあり、品質不正発覚後に認証取り消しや一時停止の処分となっている。
品質不正の内容は、検査データの改ざん(基準内への書き換え)、検査データの捏造(検査していないのにしたとデータをつくる)、所定の教育を受けていない者が検査をしているなどである。
QMS認証の基本たる ①必要なプロセスの標準を定め、②その標準通りに行うに必要な教育・訓練を行い、③所定の基準をクリアし能力のあると認められた者を作業に就かす、これらこそがQMS認証の基本であるのにもかかわらずに、この原則から逸脱していたのであるからQMS認証の根本が問われていることになろう。
そして、そのQMS認証の旗振り役が「品質部門」であることを考えると、問題は相当に根深いと言わざるを得ない。
脱出法は?
これらの混乱から脱出するには、現実を直視し、本来の品質部門はどうあらねばならないかの中長期的な“ありたい姿”を描き、現実とのギャップを埋めるべく将来のありたい姿に向かって中短期的な“めざす姿”を設定して、計画的にスパイラルアップしていくしか方法がないと考えられる。
顧客・社会のニーズに適合した商品・サービスの提供こそが品質保証であり、顧客価値創造でもある。
K.アルブレヒト提唱の「顧客価値4段階」説で言えば、上述の品質不正は、取引に欠かすことのできない「基本価値」であり、絶対に起こしてはならない。その上、競争の主戦場は今や顧客に聞いてもわからない「未知価値」領域の比重が増しており、こちらのプロセス整備の重要性が増している。
このような中にあって、品質部門が、“基本価値・未知価値の双方向の成果に結びつく本質的な役割を果たす”ために、部門や個人がどのような使命・役割を果たしていかなければいけないか、そのために必要な知識・技能・経験は何か、具体的にどのように進めていけばよいのかに関して、10回程のシリーズで筆者の経験を含めて提案させていただきたいと考えている。
第2回は「品質保証とはどういう活動か」、第3回で「改善の対象とする品質/質はどのようなものがあるか」を確認した上で、第4回で「品質部門の本質的な使命・役割の認識」へと続けていく予定である。
次号へ続く
参考文献
[1] 一般社団法人日本品質管理学会
[2] JSQC規格 TR12-001「テクニカルレポート 品質不正防止」頒布のお知らせ
関連動画のご紹介
テクノファ動画ポータルサイトにて、動画「品質保証の本質を理解する~品質スタッフの源流保証をターゲットにしたパフォーマンス向上実践例~」は、当記事の執筆者である「永原賢造」氏と弊社会長の平林による対談動画を公開中。
この動画では、本当の品質保証とは何なのかを、永原氏のご経験談を踏まえ、対談形式でお送りしています。
世の中では、「品質保証」は、検査・監査・クレーム処理等に限定した狭い意味に捉えられ、品質保証スタッフの業務も限定的になっている組織も多いのではないでしょうか。動画では、品質保証の本質(顧客価値の創造)に迫っていきます。